第4話「背中合わせの恋人」満員御礼記念

桃秀大学客員助教授
島津山先生の授業風景

連続自主映画シリーズ『東京おしゃれ探偵シマヅヤマゴウGO!』のウリのひとつとして、大学で日本史の講師をしている島津山ゴウの講義風景が挙げられます。
毎回、歴史的ウンチクをゴウが語るのですが、その講義の内容が作中テーマにマッチしているのです。50分という上映時間のため、編集の都合でカットされてしまうこともあるシーンですが、特別に脚本をノーカットで掲載させていただきます。

『東京おしゃれ探偵シマヅヤマゴウGO!』第1話講義風景より

Scene 13. 翌日・正午ころ・私立桃秀大学

Scene 14. 同・講義室

 島津山郷(以下、ゴウ)が講議をしている。
 ホワイトボードには、
 「亀比売」
 「A.D.7末成立? 作者、伊預部の馬養の連?」
 「丹後国風土記←現存せず⇒※『釈日本紀』に「丹後国風土記に曰く」の引用あり」
 などと書かれている。


ゴウの声 ……夫婦になり、蓬莱山で三年ほど暮らした嶋子は、ある日、故郷に帰りたいと姫に告げます。姫は玉匣たまくしげを嶋子に授け、

 声をBGMに、講義室全景を映す。

Scene 15. ゴウ、ホワイトボードに「玉匣」と書く

Scene 16. 講義を受けている江崎縁

 江崎、ルーズリーフにホワイドボードの内容を書き写す。

ゴウの声 「私の元へ戻りたいと思うなら、この箱を開けてはいけない」と言い含めて送り出すんだけれど、地上では300年が経ってしまってて、絶望した嶋子は約束を忘れ玉匣を開けてしまう。すると嶋子の若い肉体は風雲と共に飛び去ってしまい、ニ度と姫に会えないことを悟りむせび泣いた、と。さて……

 声をBGMに江崎、時計を見る。

Scene 17. 江崎の腕時計

 時間は午後12時40分。

Scene 18. ホワイトボードの「玉匣」の「匣」に丸をしているゴウ

ゴウ 「くしげ」というのは小さな箱で、櫛などを入れるもの、つまり「化粧箱」のことなんだよね。カメヒメは嶋子に自分の化粧箱をわたす訳、つまり、どういうこと?

 学生からの反応はない。

ゴウ 「私はあなたのためだけに化粧をするのよ、つまり、私はあなたのものなのよ」ってことね。だから、玉手箱はお土産なんかじゃなくって、夫婦間の約束の象徴なんだね。つまり、心変わりの……

 チャイムが鳴る。
 ゴウ、「あ、もうそんな時間か」という顔をして、


ゴウ 皆さん。それじゃ、ここまで。

第2話「トロイの木馬」講義風景より

Scene 9. 午後・私立桃秀大学

Scene 10. 講義室

 島津山郷(以下、ゴウ)が講議をしている。
 ホワイトボードには、
 「続日本紀」
 「しょくにほんぎ」
 「日本書紀に続く勅使の歴史書←697〜791の歴史(編年体)」
 「日本後紀」
 「792〜833の歴史(編年体)←全40巻←応仁の乱で散逸←現存10巻」
 「坂上田村麻呂 阿弖流為 アテルイ」
 などと書かれている。


ゴウ この戦いの中で、征夷大将軍坂上田村麻呂は大きな張り子の山車(ホワイトボードに山車、と書く)、だし、お祭りの山車、ね。この山車の中に兵士を忍ばせて敵に送り、城を内側から落としたって話があるの。青森のねぷた祭の起原ではないか、とされている話だけれど。これ、何かの話に似てるよね? ハイ。わかる人。

 学生たち反応なし。
 ゴウちょっとがっかりして話を続ける。


ゴウ 「イーリアス」にある「トロイの木馬」の話とそっくりだよね。類似なのか、それともイーリアスの話が日本に伝わってからあとで作られた創作なのかで意味あいがだいぶ変わってくるよね……洋の東西にこうした類似する伝承、神話、逸話は数多く存在してて……

 声をBGMに、講義室全景。
 居眠りしている田島和雄。
 田島のすぐ近くの席に江崎縁。


ゴウの声 皆さんも知ってると思いますが、オルフェウスが冥府にエウリディーケを助けに行く話と古事記のイザナギが、黄泉よみにイザナミを迎えに行く物語は似てるよね(教室の前の方の席に座っている学生に相づちを求める感じ)? ……知らない? ……(落胆)ああそう…………イーリアス完全翻訳の初めは明治時代の詩人、英文学者、土井どい晩翠ばんすいによるものでしたが、トロイの木馬のエピソードは……

 江崎、ノート(A5くらい)を立てて真剣にそのノートを見ている。

第3話「覆水盆に返らず」講義風景より

Scene 19. 私立桃秀大学(遠景)

Scene 20. 講義室

 午後13時40分。
 島津山ゴウが講議をしている。
 ゴウ、あくび。


ゴウ ふぁ……あ、失礼。えっと。そう。太公望の話ね。

 ホワイトボードには、
 「太公望=周の姜呂尚」
 「殷周革命 司馬遷『史記』による記述←本邦へは奈良時代につたわる」
 「封神演義←明代末期成立の小説←滝沢馬琴『南総里見八犬伝』等にも影響」
 などと書かれている。


ゴウ 釣り好きのことをよく太公望なんて言いますが、釣り=太公望のイメージが定着する様になったのはそんなに古くなくて、江戸時代中後期だと考えられています。どうしてかというと、娯楽としての釣りが一般的になったのが江戸時代の元禄文化のころからだから。それまでは日本にはスポーツフィッシングをする文化は無かったんです。

ゴウ で、なぜ太公望=釣りなのかといえば、司馬遷の史記の中の斉世家の項に周の文王が、黄河の支流、渭水いすいで釣りをしていた呂尚りょしょうを見て、「吾が太公、を望むこと久し」といって軍師として迎え入れたという話があって、そこからのイメージなんだ。ああ、呂尚が太公が望んだ人物、つまり「太公望」ね。

ゴウ さてこの太公望、呂尚なんだけど。この人物にちなんだ有名なことわざがあるよね。知ってるかな? えっと江崎君どう?

 学生たち。
 江崎の返事は無い。


ゴウ あれ、江崎君は欠席?

 江崎、机につっぷして居眠りをしている。
 後ろの席の田島が江崎の肩をゆする。


田島 おい江崎。江崎。

第4話「背中合わせの恋人」より

Scene 116. 警備員室内部 机の上や中を引っ掻き回し、刃物を探すゴウと江崎

 ゴウ、ホチキスなんかを取り出してみている。

ゴウ ないなあ。
江崎 ないですねぇ。

 ゴウ、急に敬語になっている江崎に首をひねる。時計が目に入る。

ゴウ あーあ。もう終わっちゃったなぁ。
江崎 ……映画でも見るつもりだったんですか?
ゴウ いや歌舞伎。
江崎 へえ。「勧進帳」とか?
ゴウ 興味ある?
江崎 多少……
ゴウ 今日のメインは「道行恋苧環みちゆきこいのおだまき」って話でさ、知ってる?
江崎 蘇我入鹿の娘と藤原鎌足の息子が恋する話ですよね?
ゴウ よく知ってるねぇ。橘姫は入鹿の娘じゃなくて妹だけどね。
江崎 どんな話なんですか?
ゴウ 645年6月12日、飛鳥板蓋宮いたぶきのみやにて中大兄皇子や藤原鎌足、このときはまだ中臣だけど、彼らが実行犯となり蘇我入鹿を暗殺したことから始まる蘇我体制打倒のクーデターをなんというか? 知ってるかな?
江崎 ……大化の改新。
ゴウ そう。そのとおり! つまり蘇我入鹿の妹と藤原鎌足の息子は敵同士だというわけ。つまり、このお話は西洋でいえば……
江崎 ロミオとジュリエット。
ゴウ ご名答。まあ結末はちょっと違うんだけれどね。鎌足の息子と橘姫は離れ離れになるんだけれど、姫の振袖につけた赤い糸をたより、二人は再会し夫婦になる。
江崎 赤い糸、ハッピーエンドなんですね!
ゴウ 彼らにとってはね。実は鎌足の息子に横恋慕するお三輪っていう……ごめん、こんなこと話してる場合じゃなかった。
江崎 いいえ。ためになりました。
ゴウ ……あのさぁ。
江崎 はい。なんですか?
ゴウ なんか急に丁寧になってない?
江崎 なにがですか?
ゴウ 君の言葉?
江崎 ……そんなことねえぜ。
ゴウ そう?
江崎 その藤原鎌足の息子って名前はなんていうの?
ゴウ え? あ。えっと……。

 ゴウ、咄嗟に名前(求女)を思い出せない。

ゴウ ……そう、桑足。
江崎 クワタリ……へぇー。
ゴウ ……そう。
江崎 二人で見るにはちょうどいい話ね。
ゴウ ……何で?
江崎 え? デートだったんでしょ?
ゴウ デート? いや、別にそんな……そんなわけないでしょ。

 江崎、超がっかり。

江崎 このドンカン……。
ゴウ はい?
江崎 その子は、あなたのことが好きだったから、約束したんじゃないの?
ゴウ え?

 このあたりで警備員室の入り口辺りに勝がやってくる。

ゴウ そんなことないよ。彼女はまーなんというか教え子? みたいなもんなんだよ?
江崎 教え子だろうが尼さんだろうが恋はするの。好きになったらおかまいなしなの!

(脚本:四方田直樹)


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